top of page

ホーム / ホルミシスとは / ケーススタディ​ / 自己免疫疾患治療への期待

自己免疫疾患治療への期待

低線量放射線は免疫機能を活性化する

 低線量の放射線は、がんやアトピーなどに対するさまざまな治療効果を及ぼしてくれます。では、いったいどのようなメカニズムで低線量放射線はこれらの病気を抑制してくれるのでしょうか。

 そのメカニズムを解く鍵は、生体の免疫機能にあります。免疫機能は、ウイルスなどの外部からの侵入者からわれわれの身体を防御してくれる大事なシステムで、その一員であるヘルパーT細胞は、外部からの侵入者を攻撃排除する役目を担った重要な細胞です。

制御性T細胞は免疫のバランスをとっている

 ヘルパーT細胞にはTh1とTh2の二種類があり、免疫機能による侵入者への攻撃法もこの二つからなりたっています。攻撃法の第一は、侵入者と戦う「細胞」を主体としたTh1免疫で、Tリンパ球、NK細胞などの細胞が、侵入者への攻撃を行います。

 第二の攻撃法は、「抗体」を主体としたTh2免疫です。こちらの攻撃法では、ヘルパーT細胞が体内に侵入してきた侵入者に対する抗体(Ige抗体など)を作らせて、侵入者を捕捉して無力化します。

 一方、免疫機構の一員である「制御性T細胞」は、このTh1免疫とTh2免疫のどちらの攻撃を用いるかを侵入者に応じて判断する司令塔的な役割を持つ細胞です。たとえば侵入者がウイルスだった場合は、Th1免疫を強く働かせ、免疫細胞で敵を攻撃。一方、花粉の場合は、Th2免疫を強く働かせ、抗体によって捕捉排除を行います。

 免疫機能は通常この二つの攻撃法がバランスよく働いていますが、制御性T細胞がうまく働かず、バランスが崩れてしまうと、さまざまな障害が現れてきます。

アレルギーや癌も免疫バランスの崩れから

 たとえばアレルギーの代表である花粉症は、体内に侵入した花粉にTh2免疫が過剰に反応して抗体を作ってしまうことによって、抗体反応であるくしゃみや鼻水がひっきりなしに出てしまう障害です。

 一方、Th1免疫である免疫細胞はがんなどを攻撃する役割を担っていますが、免疫バランスの狂いによってTh1免疫が弱まった場合は、がんに対する攻撃も弱まってしまいます。

 こうした免疫バランスの歪みと低線量放射線の関係を調べるため、がん細胞を移植したマウスに低容量のガンマ線(0.5グレイ1回)を全身照射する実験を行ってみました。その結果、ガンマ線を照射していないマウスにくらべて、ガンマ線を照射したマウスの方がTh1型へのシフト(IFN-γ/IL-4値の増加、NK細胞やCTLなどの活性化)が見られることを確認しました。

 低線量放射線の照射によって免疫細胞をコントロールする制御性T細胞が誘導され、Th1とTh2のバランスが正常化。Th1型免疫が亢進して、がんへの免疫も亢進したことが示唆されました。

免疫機構の活性化と正常化

 低線量放射線による免疫機構を活性化・正常化してくれるメカニズムで、忘れてはならないもうひとつはわれわれの身体の中で産出される活性酸素との闘いです。

 活性酸素は成人病はがんなどの原因となる物質で、われわれの身体にはこの活性酸素と闘うための「抗酸化系」と呼ばれる防御システムが備わっています。抗酸化系は活性酸素を中和したり消去したりする「抗酸化酵素」(SOD、CAT、GPxなど)、ROSを捕捉して閉じ込める「抗酸化物質」(ビタミンCおよびE、グルタチオンなど)、抗酸化によって傷ついた細胞の修復・再生を行なう[修復・再生型抗酸化物」(プロテアーゼなど)などからなっています。

マウス実験では

 抗酸化物質のうちのグルタチオン(GSH)について説明しましょう。GSHが体内で減少した状態になると、がんと闘うNK細胞の活性が低下してしまいますが、このGSHに対する低線量放射線の影響を調べるため、マウスに低線量のガンマ線を1回照射する実験を行ってみました。すると、肝臓や脾臓、脳などの臓器でGSH濃度がただちに増加。その状態が12時間ほど持続することが確認されました。

 さらに、マウスで低線量のガンマ線(0.5グレイ1回)を全身照射する実験では、脾臓リンパ球にGSH濃度の上昇、リンパ球増殖反応およびNK細胞の活性化が見られ、固形がん移植マウスに低線量のガンマ線(0.5グレイ4回)を照射する実験でも、がんの増殖が抑制されたことが確認されました。

 これらの実験によって、低線量放射線の照射が細胞内のGSHを増加し、がん免疫細胞であるNK細胞を活性化。抗酸化機能や免疫機能が亢進することで、がんの増殖が抑制されたことが示唆されました。低線量の放射線がわれわれの身体の免疫機能や抗酸化機能を活性化し、がんやアトピーなどに対する抑制効果などのさまざまな恩恵をもたらしてくれることが、おわかりいただけたのではないでしょうか。

出典:小島周二(東京理科大学薬学部教授)

見出し h4

bottom of page